大日本印刷事件最高裁S54.7.20判決
(労判323号19頁)
〈要点〉
新卒学生の採用につき、「内定」によって解約権留保付労働契約が成立したことを認めた最高裁判例です。
〈判文抜粋〉
…採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入つた者の試用期
間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。
ところで、試用契約における解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあた
り、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管
理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適
切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察
に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され、今日における雇用
の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をも
つものとしてその効力を肯定することができるが、他方、雇用契約の締結に際
しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にある
ことを考慮するとき、留保解約権の行使は、右のような解約権留保の趣旨、目
的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認する
ことができる場合にのみ許されるものと解すべきであることは、当裁判所の判
例とするところである(当裁判所昭和四三年(オ)第九三二号同四八年一二月
一二日大法廷判決、民集二七巻一一号一五三六頁)。右の理は、採用内定期間
中の留保解約権の行使についても同様に妥当するものと考えられ、したがつ
て、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが
期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが
解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当
として是認することができるものに限られると解するのが相当である。…