セイビ事件東京地裁H23.2.21決定
(労判1023号22頁)
〈要点〉
就業規則上、懲戒にあたっては懲戒委員会にかけて本人に弁明の機会を与え、懲戒の理由を明らかにするものとする旨の規定がある事案において、懲戒委員会は開かれたものの、労働者の行為を個別具体的に把握することも、処分の選択を検討することもなく、懲戒解雇相当との結論を出し、この結論に基づいて懲戒解雇が行われたことを認定し、手続的適法性に欠けることを理由の1つとして解雇無効と判断した保全事件の決定です。
〈判文抜粋〉
・・・使用者が労働者に対する懲戒処分を検討するに当たっては,特段の事情がない限り,その前提となる事実関係を使用者として把握する必要があるというべきである。そして,本件就業規則71条が,「懲戒の審査及び決定の手続」を懲戒委員会にかけるべきこと,懲戒処分に当たって,本人に十分な弁明の機会を与え,懲戒の理由を明らかにすべきことを規定しているのも,債務者として,事実関係を把握して懲戒処分の要否・内容を適切に判断するためのものであると解される。
特に,懲戒解雇は,懲戒処分の最も重いものであるから,使用者は,懲戒解雇をするに当たっては,特段の事情がない限り,従業員の行為及び関連する事情を具体的に把握すべきであり,当該行為が就業規則の定める懲戒解雇事由に該当するのか(懲戒解雇の合理性),当該行為の性質・態様その他の事情に照らして,懲戒解雇以外の懲戒処分を相当とする事情がないか(懲戒解雇の相当性の観点)といった検討をすべきである。
・・・以上によれば,本件懲戒委員会は,債権者ら3名の行為を個別具体的に把握することなく,また,当該行為に応じた懲戒処分の内容(選択)を審議することなく,懲戒解雇相当と結論付けるなどしたものといわざるを得ない。そして,債務者が,本件懲戒委員会の諮問結果を受けた後,別途,債権者ら3名の行為を具体的に把握するなどしたことをうかがわせる事情もない。そうすると,本件懲戒解雇は,本件就業規則71条の定める適正手続の趣旨に実質的に反するものであったといわざるを得ない。