労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後30日間、労働者を解雇することは法律で禁じられています(労基法19条1項)。
ただし、使用者が労働者に対し、労基法75条に基づく療養補償を行っている場合において、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らないときは、使用者は平均賃金1200日分の打切補償を行うことで解雇制限を免れられることになります(同法19条1項ただし書)。
使用者自身が療養補償を行うのでなく、労災保険の給付がなされている場合(通常はこちらでしょう)、打切補償によって解雇制限を免れることはできません。その代わり、療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金(※)を受けている場合又は3年を経過した日以後に傷病補償年金を受けることとなったときは、使用者が打切補償を行ったものとみなされ、解雇制限はなくなります(労災保険法19条)。
※傷病補償年金とは、労災保険給付の一種であり、負傷・疾病が療養開始後1年6か月を経過しても治っていない場合であって、1年6か月を経過した日において当該負傷・疾病による障害の程度が1級~3級(全部労働不能)の程度に達している場合に支給されるものです。
また、上記の「療養のため休業する期間」とは負傷・疾病が治癒又は症状固定するまでの期間と解されており、症状固定の日から30日を経過すれば、解雇制限はなくなります(光洋運輸事件名古屋地裁平成1年7月28日判決・労判567号64頁)。
もっとも、労基法19条1項による解雇制限がないとされる場合であっても、そのことは当該解雇が労基法19条1項によっては無効とされないことを意味するのみです。そのうえで、解雇に客観的に合理的理由があって社会通念上相当といえるか否か(労働契約法16条)、たとえば、従来の業務での就労が困難であるとしても他の業務への配置換えによって就労する可能性の有無等が問題となりえます。