服部時計店事件東地決S32.2.7
(労民集8巻1号57頁)
〈要点〉
解雇された労働者が解雇予告手当を受領したとしても、解雇を承認したものとはいえないとして、解雇の効力停止の仮処分が認められた事例です。当該事案の事実関係のもとでの判断ですが、解雇予告手当を受領したからといって、そのことが直ちに解雇を承認したものと評価され、解雇無効の主張が封じられるものではないことを示す裁判例として、普遍的な意義があるでしょう。
〈判文抜粋〉
昭和二十九年八月九日、被申請人Xの親権者Aが解約承諾書に拇印したこと、申請人Xが、給料残額と予告手当を受領したことは当事者間に争いがないが、疏明によれば、同日申請人会社は前記協議会における申請人らの解雇処分決定にもとずき、申請人Xの親権者Aを会社へ呼び出しB勤労課主任がXは学科実技ともに熱意がなく講師指導員に対する反抗心が強く平素の行動が陰険煽動的であるから解雇する旨を通告し、右Aの申請人Xが会社で何か悪いことをしたものかと思い、その具体的事実を知ろうとしての問に対して、ただそれは本人がよくわかつているでしよう、と答えたのみであつたので、Aは何ら解雇理由の具体的事実も知らぬままに、解約承諾書…に拇印をしたこと、その後、B主任は申請人Xを呼び出し、右Aに告げたと同様の理由を告げて解雇を通告し、なお解雇はAも承諾して既に承諾書に押印した旨申し渡したところ、申請人Xは興奮して、「自分は成績も悪くない、昌木教務主任に会わせてくれ、」二日ほど解雇問題を延期してくれ」と再度に亘り願い入れたにもかかわらず、B主任は前記Aに対する解雇通告と同人の承認の拇印及び申請人Xに対する右通告によつて既に雇用関係は終了しており、もはや、雇用についての話し合いは一切無用である旨告げたので申請人Xは解雇を承認する意思なくして、右給料残額と予告手当を受領した事実が認められる。
右事実によれば申請人X及び親権者Aは解雇を承認したものということはできないからこれを前提とする被申請人の主張は失当である。