橋元運輸事件名古屋地裁S47.4.28判決
(判タ280号294頁)
〈要点〉
競業関係にある企業の役員となったことが、就業規則の解雇事由(「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇い入れられ他に就職したとき」にあたるとして解雇された労働者が地位確認を求めるなどした事案です。
裁判所は、就業規則が禁止する二重就職には、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと判示しつつ、本件の事実関係のもとでは、会社の企業秩序を乱し、又は乱すおそれが大であるとして、解雇を有効としました。
〈判文抜粋〉
…元来就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、原告らは訴外会社の取締役に就任後、取締役として訴外会社の経営に直接関与することなく、被告の従業員として稼働していたというのであるから、原告らの被告に対する労務の提供に何ら支障を来さなかったことは明らかである。
従って原告らの取締役就任が、被告に対する労務提供を妨げる事由とは認められない。…
…しかし、訴外幸平は被告の取締役副社長に在任中に同一業種の別会社を設立することを企て、これを実行したのであり、原告らは訴外幸平の右企てを同人から告げられ、その依頼を受けて訴外会社の取締役に就任することにより右企てに参加したものであること、訴外幸平が別会社設立を理由に解任された後も、これを知りながら、いぜんとして取締役の地位にとどまり辞任手続等は一切しなかったこと、訴外幸平は被告から解任された後は訴外会社の経営に専念していたのであり、訴外幸平と原告らとの前記のような間柄からすれば、原告らは、訴外幸平から訴外会社の経営につき意見を求められるなどして、訴外会社の経営に直接関与する事態が発生する可能性が大であると考えられること、原告らは被告の単なる平従業員ではなく、いわゆる管理職ないしこれに準ずる地位にあったのであるから、被告の経営上の秘密が原告らにより訴外幸平にもれる可能性もあることなどの諸点を考え併せると、原告らが被告の許諾なしに、訴外会社の取締役に就任することは、たとえ本件解雇当時原告らが訴外会社の経営に直接関与していなかったとしても、なお被告の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であるというべきである。
してみると、原告らの訴外会社取締役就任の所為は被告就業規則第四八条四号または七号に該当するというべきであるから、これを理由としてなされた本件解雇は有効である。…