上智学院事件東京地裁H20.12.5判決
(労判981号179頁)
〈要点〉
大学教授が勤務する学校法人に無断で語学学校の講師を務めたり、独自に語学講座を開くなどしていたことにつき、就業規則で定める無許可兼職の禁止違反等の懲戒事由に該当するなどとして、学校法人から懲戒解雇を通告された事案です。
裁判所は、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職を禁止した就業規則の条項に違反しないとし、本件の事実関係のもとでは、大学教授の行為は、就業規則が禁止する無許可兼職にあたらないと判断しました。
〈判文抜粋〉
・・・被告は前記のとおり原告が無許可で兼職したと主張し,また,被告の就業規則には無許可兼職を懲戒事由としている事実が存するのであるが,就業規則は使用者がその事業活動を円滑に遂行するに必要な限りでの規律と秩序を根拠づけるにすぎず,労働者の私生活に対する使用者の一般的支配までを生ぜしめるものではない。兼職(二重就職)は,本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから,兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても,職場秩序に影響せず,かつ,使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については,兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である。
被告は,原告が語学学校の講師をしたことや土曜教室を営んだことを無許可の兼職又は事業(就業規則33条2号,4条4号)にあたると主張するが,原告がこれらを実施したのはいずれも夜間ないし土曜日と認められるのであり(原告本人,弁論の全趣旨),本件全証拠に照らしても,原告が行うべき授業等の労務提供に支障が生じたとは認めることはできないし,原告がこれらを実施したことによって,職場秩序に影響が生じたとも認めることはできない。また,土曜学校については,A大学外国語学部英語学科の公式サイトに原告がこれを一般向けに開講している旨原告のプロフィールに記載してさえしているのであり(甲2),原告が,被告もこれらの活動を容認していると考えたとしても無理からぬところでもある。してみれば,原告が語学学校の講師をしたことや土曜教室を営んだことをもって無許可の兼職又は事業(就業規則33条2号,4条4号)にあたるとする被告の主張は採用できない。…