〈手続の概要〉
民事保全法に基づく「仮の地位を定める仮処分」として、賃金仮払いの仮処分を申し立てる方法があります。
「仮処分」ですので、仮払いの命令を得ても終局的な解決とはならず、本訴(民事訴訟)又は労働審判を申し立てる必要がありますが、とりあえずの生活費を確保することができますし、仮処分の手続の中で和解が成立することも少なくありません。
手続は公開の法廷ではなく、審尋と呼ばれ、狭い会議室のような場所で行われます。証人や本人の尋問が行われることは、通常、ありません。
裁判所が仮処分命令を出す要件として「保全の必要性」があります。賃金仮払いの仮処分を申し立てた場合、この要件を満たすことを明らかにするために、賃金の支払いがなければ生活に困窮する事情を主張し、疎明する必要があります(この点、本訴や労働審判ではその必要は通常ありません。)。
労働審判のように「3回までの期日で終了する」といった決まりはありませんが、10日~2週間程度の間隔で期日が入れられますので、場合によっては労働審判よりも早く和解に至る可能性もあります。
今日では労働審判の制度がありますので、「緊急性があれば仮処分を選択する」という必然性は薄れていますが、金銭解決ではなく飽くまで職場復帰を希望する場合や、会社側の従前の言動から和解による解決が見込めない場合は、労働審判による解決の可能性が乏しく、仮処分から訴訟へ、という方針を採ることに合理性が出てきます。
〈弁護士は何をするのか〉
仮処分申立を弁護士に依頼した場合、弁護士は申立書に被保全権利(労働者の地位にあり、賃金請求権があること)及び保全の必要性が存在することを整理し、疎明資料とともに裁判所に提出します。
審尋期日には、通常、代理人のみが出頭し、裁判官や相手方代理人と議論します。
相手方から提出された答弁書その他の主張書面に対し、申立人側の反論を主張書面にまとめ、提出し、必要な疎明資料の補充を行います。申立人本人の言い分を記載した陳述書を作成し、疎明資料として提出することもあります。
依頼者は、和解協議のために裁判所から出頭を求められた場合などを除き、弁護士からの報告で手続の進行及び結果を知ることになります。