〈要点〉
鉄道会社の従業員が電車内でした痴漢行為を理由として懲戒解雇され、退職金の全額を不支給とされ、退職金を請求した事案において、裁判所は、本来支給されるべき退職金のうち3割の限度でその請求を認容しました。
〈判文抜粋〉
・・・退職金は,賃金の後払い的な性格を有し,従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。ことに,本件のように,退職金支給規則に基づき,給与及び勤続年数を基準として,支給条件が明確に規定されている場合には,その退職金は,賃金の後払い的な意味合いが強い。
・・・このような賃金の後払い的要素の強い退職金について,その退職金全額を不支給とするには,それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに,それが,業務上の横領や背任など,会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には,それが会社の名誉信用を著しく害し,会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど,上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。
・・・もっとも,退職金が功労報償的な性格を有するものであること,そして,その支給の可否については,会社の側に一定の合理的な裁量の余地があると考えられることからすれば,当該職務外の非違行為が,上記のような強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても,常に退職金の全額を支給すべきであるとはいえない。
そうすると,このような場合には,当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ,退職金のうち,一定割合を支給すべきものである。