有期雇用契約の更新の際に、労働者が会社から、次回の更新はしない旨の特約を付した契約書への押印のを求めることがあります。
その際、労働者が押印を拒否して雇止めされた場合には、雇止めの有効性が労働契約法19条に基づいて判断されることになります。従前の契約において更新への合理的期待が存した場合には、雇止めが認められるためには客観的に合理的な理由が必要であり、不更新条項の受諾を条件として更新を求めたという事情は、合理的理由の存否を判断するうえでの1つの事情に留まるものと考えられます。
これに対し、労働者が雇止めをおそれて不更新条項のある契約書への押印に応じた場合、次の期間満了の時点では更新への合理的な期待がないとして労働契約法19条の適用が排除されるのか否かについては、議論が錯綜しており、一概に断定できません。
会社が説明会を開催して不更新条項を説明した上で労働者から押印を得た事案で、期間満了で雇用契約を終了させる合意があったとして雇止めを認めた裁判例がある一方(近畿コカ・コーラボトリング事件・大阪地裁平成17年1月13日判決・労判893号150頁)、不更新条項によって直ちに合理的期待の消滅を認めず、解雇権濫用法理の類推適用(今日でいえば労働契約法19条の適用)にあたって評価障害事実(雇止めが権利濫用とならない方向の考慮要素の1つ)に留まるとして雇止めを認めなかった裁判例もあります(明石書店事件・東京地裁平成22年7月30日決定・労判1014号83頁)。