労働契約法19条は、雇止めが無効となって契約の更新が認められるための要件として、労働者が期間満了前に「更新の申込み」をするか又は期間満了後遅滞なく「締結の申込み」をしたことを求めています。
しかし、この「更新の申込み」又は「締結の申込み」をしたと認められるためには、特定の形式は必要でなく、「使用者の雇止めに遅滞なく異議を述べれば、更新または締結の申込みを黙示にしたこととなる」と解釈されています(菅野和夫『労働法〔第11版補正版〕』329頁)。
この点、国会審議において同条の立法過程で次のような政府答弁がなされていることから、上記の解釈は、立法者意思にも即しています。
改正法で新設される第19条は、判例法理として確立している雇いどめ法理の内容を忠実に条文化するものでありますが、判例法理を立法化する場合には、訴訟提起の有無にかかわらず適用されるルールとして、紛争となっていないケースに対しても、条文がどのように影響するかも踏まえた条文とする必要がある。
それから、今回、労働者の更新または締結の申し込みを規定しておるわけでございますが、これは、期間満了時に、使用者も労働者も何もせずに、円満に退職する場合にまで更新承諾みなしを発動させることは適当でないことから、労働者が更新、締結の申し込みをすることを定めたものであります。
この更新、締結の申し込みは、期間満了後でもよいし、要式行為ではなく、すなわち口頭でもよく、例えば、使用者による雇いどめの意思表示に対して、嫌だ、困ると言うなど、何らかの反対の意思表示が伝わるものであればよいものであります。
このように、雇いどめされたことを不満として紛争となった場合には、更新、締結の申し込みの主張、立証に関しては、労働者が雇いどめに異議があることが、直接あるいは間接に、例えば、訴訟の提起、紛争調整機関への申し立て、団体交渉等によって使用者に伝えられたことを概括的に主張、立証すればよいものと解されます。
(第180回衆議院厚生労働委員会議録第15号、津田弥太郎政務官答弁)
ところで、労働契約法19条では、期間満了後は「遅滞なく」締結の申込みをすることが要件とされています。従来の判例法理である「解雇権濫用法理の類推適用」という構成であれば、雇止めが無効であれば当然に契約は更新されており、個別の事情により、長期間経過後に突如として雇止めの無効をいうことが信義則に反して許されない場合がありうるとしても、雇止め無効の主張について、一般的に時間による制限があるわけではないと考えられました。
この点、「遅滞なく」を文字どおりに受け止めると判例法理とは異なり、雇止め無効の主張に一般的に時間的な制約が設けられたとも解しうるところです。
しかし、労働契約法19条が上記のように「判例法理として確立している雇いどめ法理の内容を忠実に条文化するもの」として立法されたものであるとすれば、そのような解釈は相当ではありません。
したがって、「信義則上、雇止めを承認したものとみなされる程度の期間を経過した場合に、『遅滞』があったと解することになり、その期間は『遅滞なく』という語感よりも長い期間の経過を許容するものとなろう」との見解(荒木尚志他『労働契約法〔第2版〕』220頁)が正当であると考えられます。
もっとも、雇止めを受けた労働者側の心構えとしては、後日、無用な論点を生じないよう、雇止めに不服があれば、なるべく速やかに異議がある旨を使用者に告げ、そのことを証拠化しておくことが望ましいといえます。