労働者が解雇無効を争った事件で解決金を得て退職する内容で和解する場合、解雇日を退職日とするケースと、和解日(又は和解日以後の年度末等の特定の日)を退職日とするケースがあります。
その差異はどのような点にあるでしょうか。
まず、和解日を退職日とした場合、労働者は「解雇日」とされた日以後も、その使用者のもとで雇用されていたことになります。
そうすると、労働者はその間、失業保険を受給する資格を満たしていなかったことになりますから、もしも失業保険の仮給付を受けていたのであれば、これを返還しなければなりません。
また、使用者は労働者が解雇によって社会保険の資格を喪失したものとして届出をしているはずですが、この届は誤りであったことになります。そこで、使用者は、資格喪失届の取消手続きを行ったうえ、当該労働者にかかる未納付の社会保険料を納付し、労働者負担分を労働者に請求することが必要になります。
これに対し、解雇日を退職日とする場合、労働者が解雇日に従業員としての地位を喪失したことを前提として行われた失業保険の給付や社会保険の資格喪失届には誤りはなかったことになります。したがって、失業保険給付を返還することは求められませんし、社会保険の資格喪失届の取消しと取消しに伴う社会保険料の精算の必要も生じません。
以上からお分かりになるように、解雇日退職の方が労使双方にとって和解後の処理が簡便であることから、解雇日退職とすることの方が一般的になっています。
もっとも、解雇日退職とすると、労働者にとっては解雇を争っていた期間のキャリアに空白が生じてしまいます。そのことを重視して和解日退職を強く希望される方もなくはありません。