「解雇されました。不当解雇なので、予告手当と慰謝料を請求したいと思います。」
このように申し出て相談に来られた方から話を聞いてみると、「辞めてくれ」と言われて「分かりました」と答えたという経緯であって、解雇通知書をもらっていないばかりか、「解雇」とも「クビ」とも言われていないというケースが少なくありません。
「辞めてくれ」と言われて「分かりました」と答えて退職するのであれば、合意退職であって解雇ではありません。解雇も合意退職も労働契約が終了するという効果は同じですが、解雇が使用者の一方的意思表示であるのに対し、合意退職は労働契約解約の申込みと承諾という意思表示の合致によって成立します。
解雇予告手当(労働基準法20条)の請求権は、合意退職であれば発生しません。即日の退職であっても同様です。解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用があるのも、解雇の場合に限られます。
したがって、合意退職であれば、解雇予告手当の請求はできませんし、慰謝料等の損害賠償請求も原則としてできません。損害賠償請求の根拠は不法行為(民法709条)ですが、退職を勧奨するのは自由であり(拒否も自由です)、退職強要にわたらない限りは、違法性がないからです。
間でも請求できます(同条2項)。
それでも、復職の希望がある場合であれば、合意退職の承諾の意思表示について、自由な意思に基づいてなされたものではなく無効である、などとして争い、復職を求めることが考えられますが、復職を全く希望しないというケースでは、使用者に対して何らかの請求を行うことが著しく困難となります。
したがって、勤務先から「辞めてくれ」と言われても、後日争おうという考えがあるなら、決して「分かりました」とは答えないことです。「辞めません。」「どうしても辞めさせたいなら、解雇してください。」と答えて、解雇の意思表示をしてもらうことです。そして、後になって解雇の事実を否定されないよう、解雇通知書を要求しましょう。解雇理由も記載した証明書(解雇理由証明書)を得られればベストです。
なお、解雇通知書又は解雇理由証明書の交付要求には法的な根拠があります。労働基準法22条がそれです。同条は、労働者が退職の場合において退職の事由(解雇の場合は解雇の理由を含む)について証明書を要求したときは、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならないと定めています。解雇予告があった場合は、解雇予告日から退職日までの間でも請求できます(同条2項)。