解雇や雇止めを受けた労働者が地位確認を求めて会社を訴える場合、どこの裁判所に訴えることができるでしょうか。
まず、会社の本店所在地を管轄する裁判所に訴えることができます。事件の種類を問わず、一般的に被告の生活の本拠地の裁判所に管轄権が認められているところ(普通裁判籍、民訴法4条1項)、法人については「主たる事務所又は営業所」が普通裁判籍にあたるものとされているからです(同条4項)。
労働者甲野一郎氏が勤務先A社を被告として提訴するとき、A社の本店所在地が東京都内であるなら、甲野氏が就労していた地が北海道であれ、沖縄であれ、現在、甲野氏が青森に住んでいようと、鹿児島に住んでいようと、甲野氏は東京地裁に提訴することができます。
また、たとえば、甲野氏が大阪市内にある大阪支店で就労していたのだとすると、大阪地裁に提訴することも可能です。
民訴法5条に定める「独立裁判籍」の1つとして「事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの」については「当該事務所又は営業所の所在地」が認められているからです(同法5条5号)。「業務に関する」訴えには「業務のための雇用関係に基づく請求」が含まれると解されていますので(『条解民事訴訟法〔第2版〕』91頁)、この規定に基づき、就労していた事業場が「営業所」としての実質を有するものである限り、当該事業場の所在地を管轄する裁判所に提訴することができます。
では、甲野氏がA社から派遣されて大阪市内にあるB社で就労しており、A社には関西に営業所がない場合には、どうでしょうか。
この場合、上記の民訴法5条5号は使えません。B社の営業所が大阪市内にあっても、甲野氏が地位確認を求める相手は雇用関係にあるA社であり、A社の「事務所又は営業所における業務に関する」訴えとはいえないからです。
ところで、併合請求の場合、1個の請求について管轄権があれば請求の全部について管轄が認められます(同法7条)。通常、地位確認請求訴訟では、賃金請求を併合します。そうすると、賃金請求について原告の住所地の裁判所に管轄が認められるなら、甲野氏は住所地の裁判所(大阪市に居住なら大阪地裁)に提訴することができることになります。
ですが、賃金請求について労働者の住所地を管轄する裁判所に管轄権があることを否定した裁判例があり(東高決S38.1.24下民集14巻1号58頁)(※)、この裁判例を前提とすると、賃金請求を併合しても、大阪地裁に管轄権は生じないことになってしまいます。
(※この裁判例に対する疑問は下記のコラムに記載しています。)
https://www.zangyodai-osaka.com/wage-payment-place/
そうだとしても、たとえば不法行為に基づく損害賠償請求を併合することができるなら、大阪地裁に提訴することが可能です。不法行為に基づく損害賠償請求であれば、義務履行地は債権者の現在の住所であることに争いはなく(民法484条)、その結果、債権者の住所地に独立裁判籍が認められるからです(民訴法5条1号)。
ただ、そうやって大阪地裁に提訴した場合、関西に営業所がないA社にとっては応訴の負担が重くなります。そのため、A社から民事訴訟法17条に基づく移送の申立て(※)がなされるかも知れません。
(※賃金請求と17条移送の関係について下記のコラムで論じています。)