弁護士に相談する際、相談がスムーズに進むために心掛けることが望ましいと私が思う事柄について、主に「不当解雇」事案の相談を念頭に、整理してみたいと思います。
1.メモを用意すること
ご相談のご予約を受ける際、私は、ほぼ全件で、できれば相談内容の事案に関するメモをご用意いただきたいとお願いしています。メモに書いていただきたい事柄は、①基本的な事実関係・背景事情、②事実経過の概要(時系列)、の2点です。
相談の際には口頭で相談内容のご説明をいただきますが、口頭だとどうしても重要な事項が漏れてしまったり、言い間違い、聞き間違い等の問題を生じがちです。用意したメモを示しながらご説明いただくことは、それらの問題を防ぐとともに、相談時間を節約するために役に立ちます。
中には、書きためた書面を何十枚とお持ちになる方もいますが、そのような場合、全部読んだのでは、かえって相談が長時間になってしまうため、重要な部分をご指摘いただいてそこだけ読むか、あるいは読まずに口頭でのご説明をお願いすることになります。A4用紙1~3枚程度に整理していただくのが適当です。
2.メモに書くべき事柄
①基本的な事実関係・背景事情として、一般的にお書きいただきたい事項は、次のような事柄です。
・会社名
・業種、事業の内容
・おおよその従業員数(会社全体の従業員数、配属地の従業員数)
・担当業務の内容
・入社日
・期間の定めの有無・内容
・その他当該事案における紛争の背景事情として重要な事項(たとえば、試用期間中の解雇なら「試用期間の定めの内容」等)
②事実経過の概要として、時系列でお書きいただきたい事項は、次のような事柄です。
・解雇理由として会社が主張している(主張すると想定される)事項に関する実際の経過
・解雇通告及びその後の交渉経過
相談申込みの受付時にメモの用意をお願いすると、不当解雇事案の場合、多くの相談者が解雇通告の場面から始まる事実経過を記したメモをお持ちになります。
もちろん、解雇通告以後の経緯も大事ですが、「解雇」とは労働契約の解除なのですから、その有効性を判断するためには、どんな契約なのかが問題になりますし、何年勤務されたのかも背景事情として重要です。したがって、入社日を初め、上記①の基本的な事実関係・背景事情として列記したような事項についても、お書きいただくことが適当です。
また、解雇理由として会社が主張している事項については、多くの方が報告されるのですが、反論の内容となるべき、その事項に関する実際の事実経過については、メモに書かず、口頭でも説明しないまま、「どうですか」「争えますか」と問われる方が少なからずあります。
会社がおよそ客観的合理的理由と認められない「解雇理由」を主張している場合であれば、その旨回答できますが、相談者に山ほどミスや非違行為があったと会社が主張していることだけをお聞きして、それで「解雇は無効だ」と言えるはずはありません。会社が解雇理由として主張している事項について、実際の事実経過がどうであったか、反論したい点は何かについても意識して時系列メモを作成いただくことが望ましいと言えます。
3.固有名を用いること
メモでも口頭の説明でも同様ですが、相談内容において登場する重要な人物や会社等については、どうしても秘匿したい特段の事情がない限りは、固有名を用いていただくことが適当です。
最近は、個人情報保護の観念が浸透したせいか、固有名を用いず、仮名や肩書を用いて説明しようとする人が増えた印象があります。
しかし、弁護士には守秘義務があります。弁護士に相談時に話した内容の秘密は厳守されますので、心配せずに固有名でお話しいただきたいと思います。
以前、相談者のお話に「課長」「課長」と繰り返し出てくるので、こちらは同一人物のことと理解しつつしばらく話をした後に、どうも辻褄が合わないなと思って確認したら、「それはまた別の『課長』です」と言われたことがありました。似たようなことは、ときどきあります。そのような場合、誤解した状態で検討し、会話した時間が無駄になってしまいます。
そうならないよう、登場人物については(「姓」「名」でなくても「姓」だけでも)固有名で名指していただくのが適当です。「A氏」「B氏」などと仮名で呼ぶことも、名無しよりはましですが、混乱しがちですので、実際の固有名を用いていただいた方がより適切だと思います。
4.資料を携行すること
法律相談を受けるにあたっては、相談したい事項に関連する資料で手元にあるものは、なるべく全部、携行していただくことが望ましいです。不当解雇のご相談であれば、次のような資料のうち手元にあるものをお持ちいただくことが適当です。
・雇用契約書又は労働条件通知書
・就業規則(賃金規程等を含む。)
・直近の給料明細(3か月分程度)
・解雇通知書
・解雇理由証明書
・その他解雇通知後に会社とやりとりした書面がある場合には、その書面
稀に、相談の際に手ぶらで事務所に来られる方があります。しかし、弁護士は、占い師ではなく、「黙って座ればピタリとあたる」回答をする技能は持ち合わせていません。契約に関するご相談であれば、契約に基づく権利義務の内容を把握したうえで、発生した紛争に対する法的な評価を検討・判断することしかできません。そのためには、契約の内容を明らかにする契約書等の資料を拝見する必要があります。労働契約に関するご相談の場合には、雇用契約書又は労働条件通知書及び就業規則等の資料がそれにあたります。
5.重要な資料は紙で用意すること
最近は、資料をデジタルデータでお持ちになる方も増えました。ご相談の際に、お持ちになったノートパソコンやスマホの画面に表示させた画像で資料を拝見することはよくありますし、2~3枚の書面ならデータのコピーを頂戴できれば当方で印刷したうえで、お話を伺うこともあります。
ですが、スマホの小さな画面ではもちろん、ノートパソコンでも、紙の資料に比べると、読み易さ、一覧性、見たい部分への到達の容易性等の点で劣ることは否めません。
資料をデジタルデータでお持ちの場合、必要になるかどうか分からないような資料まで印刷してお持ちになる必要はありませんが、必ず必要になるであろう重要な資料については、印刷したものをお持ちいただいた方が相談が円滑に進む可能性を高めますから、なるべくは印刷してお持ちになることをお勧めします。不当解雇事案について具体的に言えば、少なくとも雇用契約書又は労働条件通知書、解雇通知書、解雇理由証明書については、なるべく紙でお持ちになることが適当だと思います。
以上いろいろ述べましたが、飽くまで「相談がより円滑に進み、より適切な回答を得られやすくする」という観点から、その方が「望ましい」と思うことを書き出してみたに過ぎません。決して「ここに書いたことを守れない相談者は来るな」という趣旨ではありませんので、「『注文の多い法律事務所』だ!」と、相談を敬遠されることがありませんよう、お願いいたします。
以上いろいろ述べましたが、飽くまで「相談がより円滑に進み、より適切な回答を得られやすくする」という観点から、その方が「望ましい」と思うことを書き出してみたに過ぎません。決して「ここに書いたことを守れない相談者は来るな」という趣旨ではありませんので、「『注文の多い法律事務所』だ!」と、相談を敬遠されることがありませんよう、お願いいたします。