裁判と比べて労働審判を申し立てることの最大のメリットは解決までにかかる時間が短いことです。原則として3回までの期日で終了することが法律上定められていますので(労働審判法15条2項)、申立てから2か月かそこらで終了(調停成立又は審判の申し渡し)してしまいます。
もっとも、職場が関係するあらゆる紛争について、労働審判手続を利用できるわけではありません。その対象は法律上限定されています。条文(労働審判法1条)によれば、それは「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」です。
したがって、職場に関係する紛争であっても、たとえば、労働者相互間の紛争は「労働者と事業主との間に生じた…紛争」ではないので、該当しません。上司からハラスメントをされたとして、その上司個人に対して損害賠償請求をするのであれば、労働審判手続は利用できないのです(会社に対してであれば可能です。)。
また、会社、労働者間の貸付金の返還請求も、「労働関係に関する事項について…生じた…紛争」ではないので対象外です。
行政訴訟の対象となる公務員の任免、懲戒処分の取消しに関する紛争も、「民事に関する紛争」でないとされ、対象外です。
他方で、会社から個人事業主として扱われ、業務委託契約を締結して就労していても、実態として労働契約であると評価されるなら対象とされます。ですので、会社側が労働契約であることを争っていても、労働審判の申立てが当然に不適法として却下されることにはなりません。
もしも、解雇や残業代の未払いその他の職場におけるトラブルの当事者となった場合、裁判をした場合の係争の期間の長さが懸念されるなら、そのトラブルが労働審判の対象となる紛争であることを確認のうえ、労働審判の申立てを検討なさってみてください。