無効な解雇を受けた労働者が他社で再就職してしまうと、以後の賃金請求権の発生を否定される場合があります。このことを就労の意思・能力の現存が不就労期間の賃金請求の要件であると説明されることもあります。しかし、この説明には疑問があります。
労働者を解雇する場合、30日前の予告が法律によって義務づけられています(労働基準法21条1項本文前段)。予告期間が30日に不足する場合は不足する日数分の解雇予告手当の支払を要します(同項本文後段、同条2項)。
では、この解雇予告期間の日数はどのように数えるのでしょうか。たとえば、11月30日付で解雇するためには遅くともいつまでに予告する必要があるのか、という問題です。
不文の規範として「ノーワークノーペイの原則」が認められています。賃金は労務提供の対価なので、就労しなければ賃金債権は発生しないという原則です。
しかし、不当解雇(雇止め)された労働者が解雇無効となった場合には、解雇後の期間について、働いていないのに賃金請求が可能とされています。その旨定めた条文は労働基準法にも労働契約法にもありません。何が根拠でしょうか。
「解雇されました。不当解雇なので、予告手当と慰謝料を請求したいと思います。」
このように申し出て相談に来られた方から話を聞いてみると、「辞めてくれ」と言われて「分かりました」と答えたという経緯であって、解雇通知書をもらっていないばかりか、「解雇」とも「クビ」とも言われていないというケースが少なくありません。
労働者が解雇無効を争った事件で解決金を得て退職する内容で和解する場合、解雇日を退職日とするケースと、和解日(又は和解日以後の年度末等の特定の日)を退職日とするケースがあります。
その差異はどのような点にあるでしょうか。
使用者が違法な人事措置を行い、労働者の従前の職場での就労を拒絶(典型的には解雇)した場合、使用者の帰責事由に基づく労務の履行不能となり、労働者は不就労期間の賃金を請求することができます(民法536条2項)。
就業規則等によって傷病休職制度が設けられている場合、一定の休職期間中に治癒し就労可能とならなかったときは解雇又は自動的に退職するものと定められていることが一般的です。