使用者は労働者の同意なく、就業規則の変更によって労働条件を労働者の不利益に変更することは原則としてできないものとされています(労働契約法8条)。
もっとも労働条件の変更が労働者にとって不利益な変更なのか、有利な変更なのかは、ときに微妙です。
たとえば所定労働時間を短縮する就業規則の変更は、それ自体は労働者にとって有利な変更と考えるのが普通でしょうが、時給制の労働者にとっては給与の減少を意味しますので、有利と不利の両面を有する変更ですが、この場合、不利益変更にあたるのでしょうか。
裁判と比べて労働審判を申し立てることの最大のメリットは解決までにかかる時間が短いことです。原則として3回までの期日で終了することが法律上定められていますので(労働審判法15条2項)、申立てから2か月かそこらで終了(調停成立又は審判の申し渡し)してしまいます。
退職金規程を設けている会社の多くでは自己都合退職の場合の退職金支給率を定年による退職等、通常の場合の退職金支給率よりも低く設定しています。
退職金制度の設計について、法律には特段の規制がありませんから、そのような自己都合退職者に対する別異の取扱いも違法とはされません。
そのような規程のある会社において、労働者が退職届又は退職願を書き、退職した場合、会社は、自己都合退職の場合の低い支給率で計算した退職金を支給するのが通常です。
定年制を設けている会社は、高年齢者雇用安定法の平成16年改正により、65歳までの継続雇用制度の導入(又は定年年齢の65歳までの引上げ若しくは定年制の廃止)を義務付けられています。同年改正法は、労使協定によって継続雇用の対象者を限定することを許容していましたが、それも平成24年改正により段階的に廃止するものとされました。
今日、60歳定年を迎えた労働者について、会社は希望者全員を対象とする継続雇用制度を導入する義務を負っています。
少し前、「新型コロナワクチンの接種を命ずる使用者の要求を労働者が拒絶できる根拠は何か」と問うネット上の相談に「接種は努力義務に過ぎないから」と答える弁護士の回答を見ました。
では、労働者は会社に対して接種する努力義務は負っているのでしょうか。
退職金の請求権は、残業代のように法律に定める要件を満たせば当然に発生するものではありません。労働契約上の根拠に基づいて発生します。
一般的には就業規則の一部を構成する規則として退職金規程が制定されることにより規程に定められた内容が労働契約の内容となり、規程に従って退職金を請求することが可能となります。
退職金は、多額に及ぶこともある大事なお金ですが、一般的には、一生にそう何度も受け取るものでもありません。そのためか、基礎的な知識が必ずしも周知されておらず、誤解されている方も少なくないようです。そこで、退職金をめぐる、よくある誤解について解説したいと思います。
賃金の減額や、従業員形態の変更(たとえば正社員からパートへ)にかかる同意書に署名するよう雇用主から求められて署名してしまったといった話がよくあります。契約は契約当事者の合意によって変更できます。労働契約についても、法律は、合意によって契約内容を変更しうることを規定しており(労働契約法8条)、原則は異なりません。
ネット上の法律相談を見ていると、「退職を申し出たが、会社が承諾してくれないので退職できない。どうしたら退職できるか」という趣旨の相談が繰り返し投稿されています。
類似の投稿を見る度に不思議な気持ちになります。
最高裁は、今般、契約社員(有期雇用労働者)に退職金を支給しないことを不合理な格差でないとする判断を示しました(メトロコマース事件最判R2年10月13日最高裁ホームページ)。
原審東京高裁は、正社員に対する支給基準の4分の1に相当する額を支給しない範囲で不合理であると認めていたのに対し(東高判H31.2.20労判1198号5頁)、これを覆す判断をしたものです。
マスコミも大きく報道しましたので、ご存じの方が多いと思います。
会社が労働者を休業させた場合、平均賃金の6割の支給が必要であることはよく知られていると思います。就業規則にその旨の規定を置いている会社も少なくないでしょう。では、会社は、そのような規定に基づいて、いつでも労働者を休業させて給料の4割をカットすることができるのでしょうか。
2018年労働基準法改正により、一定の範囲で使用者による年休日の指定が可能になりました。すなわち、年休の付与日数が10日以上である労働者に対して、年5日について使用者が時季指定をする義務を負うものとされました(労働基準法39条7項)。法文は単に指定の「義務」を定めたような規定ぶりですが、その反面、指定の「権限」をも与えたものと解されています(菅野和夫『労働法〔第12版〕』571頁)。
従来、年休日の特定方法は、労働者の時季指定によるか又は労使協定に基づく計画年休によるかのどちらかに限られていましたので、大きな変更です。
「同一労働同一賃金」という言葉をよく聞くようになりました。
一部には、文字どおり「同一の業務に従事していれば同一の賃金が支払われなければならない」という法的ルールが導入されたかのように誤解されている向きもあるようですが、そうではありません。
ネット上の法律相談を見ていると、「これってパワハラですか?」と尋ねる投稿をたくさん見かけます。
そのような投稿を見るたびに私が疑問に思うのは、「この相談者は、『パワハラ』だとしたら、どうなると思っているのだろう」ということです。
「退職金は正社員が退職したときに出る(可能性がある)ものであって、非正規社員に退職金はない」という認識は、一般常識の部類に属するのではないかと思います。
ところが、近時、正社員に対しては規程に基づいて退職金を支給しつつ、有期雇用の契約社員に対しては退職金を全く支払らないことが、労働契約法20条に違反し、不法行為にあたるとして損害賠償請求を認めた裁判例が出ました(メトロコマース事件東高判H31.2.20労判1198号5頁)。
退職金規程において懲戒解雇となった労働者に対しては退職金を支給しないこととされていることがよくあります。このことは、よく知られていて、懲戒解雇の場合は退職金が出ないとの理解は、会社から言われるまでもなく常識として持っている労働者が多いようです。しかし、懲戒解雇の場合、必ず退職金の請求は不可なのか、というと法律的にはそうではありません。
賃金が年俸制の場合について、世間では、勤務成績の不良その他の理由によって使用者が次年度の年俸額を自由に減額できると理解する向きがあるようです。しかし、それは誤解というべきだろうと私は思います。
労働者が退職するにあたって、使用者から「同業他社に就職しない」「競合する事業を営まない」ことなどを約束する誓約書に署名・押印するよう求められることがあります。このように退職後の労働者に競業避止義務を課す誓約書は、労働者の職業選択の自由を制約するものであることから、その有効性が問題となります。
使用者が違法な人事措置を行い、労働者の従前の職場での就労を拒絶(典型的には解雇)した場合、使用者の帰責事由に基づく労務の履行不能となり、労働者は不就労期間の賃金を請求することができます(民法536条2項)。
就業規則において、私傷病による欠勤が一定の期間継続したときは休職を命ずること、そして、休職後一定の期間内に復職できない場合には自然退職となると定められていることがよくあります。
使用者が労働基準法37条に基づいて支払義務を負う残業手当を支払わず、労働者がその支払いを求めて提訴した場合、裁判所は、同条に基づいて認められる残業手当と同額について付加金として支払いを命じることができるとされています(労働基準法114条)。残業手当のほかに、解雇予告手当(同法20条)、休業手当(同法26条)、年休手当(同法39条7項)の未払金を請求する場合についても同様です。
退職にあたり、使用者から退職後に残業代を請求しないことを約する誓約書や未払賃金がないことの確認書・念書に署名・押印を求められるケースがあります。
このような場合、労働者としても、応じる義務はないと分かっていても、拒否すれば最後の給料の支払いを保留されてしまうことを恐れ、署名・押印に応じてしまいがちです。